東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)282号 判決 1987年8月26日
原告
葉木富雄
右訴訟代理人弁護士
秋山泰雄
同
武子暠文
右訴訟復代理人弁護士
荻原富保
被告
関東郵政局長松澤弘
右指定代理人
田中信義
同
武田勝年
同
佐々木英治
同
安藤三男
同
山下和久
同
高橋弘
同
高橋哲弥
同
大崎研三
同
猪俣清
同
本橋正和
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 被告が昭和五一年三月一六日発令した原告に対する減給(六か月間俸給の月額の一〇分の一)の懲戒処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文と同旨の判決を求める。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、千葉県多古郵便局に勤務する国家公務員たる郵政事務官である。
2 被告は、昭和五一年三月一六日、原告に対し、減給(六か月間俸給の月額の一〇分の一)の懲戒処分(以下、「本件懲戒処分」という。)を発令した。
3 しかしながら、原告が本件懲戒処分を受けるべき理由はなく、本件懲戒処分は違法であるから、その取消しを求める。
二 請求原因に対する認否
請求原因1及び2記載の各事実はいずれも認める。
三 抗弁
1 全逓信労働組合及び全逓信労働組合香取支部の組織
(一) 全逓信労働組合(以下「全逓」という。)は、郵政事業職員及び日本郵便逓送株式会社の職員などの郵政関係労働者をもって構成する単一組織の労働組合で、「中央本部」、「地方本部」、「地区本部」、「支部」という組織機構を有している。
全逓は、日本労働組合総評議会(以下「総評」という。)及び三公社五現業関係労働組合のうち総評系の労働組合で結成されている協議機関である公共企業体等労働組合協議会(以下「公労協」という。)に加盟し、その中心となって活動している。
(二) 全逓香取支部(以下、「香取支部」という。)は、全逓千葉地区本部(以下、「千葉地区本部」という。)傘下の一支部であって、千葉県佐原市及び香取郡内郵便局に勤務する公共企業体等労働委員会告示第一号の職員を除くその他の職員をもって組織され、支部長、副支部長、書記長各一名、執行委員七名で執行委員会を構成し支部活動に当たっている。そして、同支部には、集配郵便局単位に一二の分会が置かれている。
原告は、後記昭和四九年一一月一九日のストライキ及び昭和五〇年一二月一日のストライキの当時香取支部の支部長であった。
2 昭和四九年一一月一九日のストライキについて
(一) 総評及び公労協の動き
(1) 総評は、昭和四九年八月一九日から同月二二日までの四日間、第四回定期大会を開催し、昭和四九年秋期年末闘争の基本方針を決定した。右決定は、同闘争を「準春闘」と位置づけて、国民春闘路線を継承・発展させるものとし、公共料金値上げ阻止、低所得者層の生活改善要求等を中心課題として春闘規模の統一行動として取り組むというものであった。そして、この秋期年末闘争の具体的スケジュールについて、同年九月一九日第一回拡大評議員会を開催して以下のとおり決定した。
すなわち、<1>昭和四九年九月二七日のインフレ、公共料金値上げ反対の統一行動を皮切りに、同月二九日のインフレ共闘主催の大衆集会を組織する、<2>翌一〇月段階では対政府交渉を強化するとともに中央及び地方における討論集会並びに一〇・二一反戦統一行動を組織する、<3>「インフレ手当」を含めた年末一時金闘争の山場を同年一一月一八日ないし二〇日ごろに設定して決着を図る、<4>未解決事項は更に五〇年春闘へ継続させる、というものであった。
(2) 公労協は、総評の右方針を受けて、同年九月二四日第一八回共闘委員会を開催し、<1>公共料金値上げに反対して、同月二七日に一部時限ストを含む職場集会等の抗議行動を行う、<2>秋期年末闘争の山場の同年一一月二〇日ごろに全交運を中心とする私鉄等の民間単産と共闘して全一日のストライキを行い、更にそれを反復する態勢を作る、等の秋期年末闘争戦術方針を決定した。
続いて同年一〇月九日拡大共闘委員会を開催し、向う一年間の運動方針を決定したが、その中で、秋期年末闘争とスト権奪還闘争について、<1>インフレ手当の要求は一か月分とする、<2>同月末までに年末一時金や年金、社会福祉予算などにつき公共企業体当局や政府への統一要求を提出する、<3>同年一一月一九日に第一波の二四時間ストを実施し、これによる決着がつかない場合は同年一二月初旬までに第二波の二四時間ストライキを反復実施するなどの方針を決定した。
(二) 全逓におけるストライキ実施の経緯
(1) 全逓は、総評及び公労協の前記各決定を受け、昭和四九年一〇月二九日、三〇日の二日間にわたり第五九回中央委員会を開催し、同年秋期年末闘争方針を決定した。この決定には、闘争の主要目標として、<1>郵便料金等公共料金値上げ反対、反インフレなどの国民的諸課題の前進、<2>処分発令阻止と無条件実損回復、<3>生命と健康と権利を守る闘いなど反合理化の闘い、<4>労働時間短縮、<5>生活防衛一時金(インフレ手当)一か月分、年末手当三・五か月分の獲得、<6>特定局制度撤廃等の九項目が掲げられた。
そして、その具体的闘争戦術としては、<1>同年一一月一六日から時間外労働拒否及び業務規制闘争戦術に突入する、<2>同月一七日から同月二二日にかけて行われる「反インフレ、田中内閣打倒、フォード来日反対、核持込み反対の官民統一大衆行動」に積極的に参加する、<3>同月一九日には、「一時金一か月分獲得」の要求を併せた総評、公労協の統一スト(以下、「一一・一九スト」という。)を打ち抜く、<4>「一時金問題」については、同月二一日ごろ第三者機関に移行し、翌一二月五日の公労協統一ストを目途に解決を図る、<5>以上のストライキの他、全逓の独自要求解決に向けて、もう一波を設定して闘い、公労協の統一闘争の期間内に要求が前進しないときは、統一闘争終結後も更にストライキを組む、<6>四九年春闘ストの処分の発令の動きがでるならば、直ちに公労協全体でこれを阻止する闘いを統一ストライキを含めて組織する、というものであった。
(2) 全逓は、同年一〇月三一日第三八回全国戦術委員会を開催して、右中央委員会決定の闘争方針を忠実に実践することを確認するとともに、「スト権確立一票投票」の実施を決定した。この決定を受けて、全逓中央執行委員会は、同日指令第一三号を発出して、「各級機関は、中央委員会決定の方針の周知と徹底をはかり、年末闘争にむけての体制確立と、一票投票の成功にむけて全力を傾注せよ。」と指令した。
(3) 全逓は、前記のような闘争方針に基づき、ストライキ態勢の確立を図るため、傘下の各組織に指令し、スト批准投票の実施、教宣活動の強化等により、組合員の闘争意欲の盛上げを図った。また、全逓中央委員会は、同年一一月一四日、指令第一七号を発出し、<1>同月一五日、時間外労働を拒否して年末闘争勝利に向けた集会を開催すること、<2>同月一六日以降、無期限の時間外労働拒否及び業務規制闘争に突入すること、<3>別途指定する拠点職場においては、同月一九日全一日のストライキに突入できる態勢を確立すること、などを指令した。
これに対して、郵政大臣は、同年一一月一六日、全逓中央執行委員長に対し、「警告書」をもって、全逓が同月一九日に予定しているストライキは違法であるから、直ちに中止するよう強く求めるとともに、万一これを実施した場合は厳正な措置をもって臨むものであることを警告する一方、職員に対しては、「職員のみなさんへ」と題する談話を公表し、同月一九日の違法なストライキには絶対参加することのないよう期待してやまない旨訴えた。
(4) 次いで、全逓中央闘争委員会は、同年一一月一八日指令第一九号を発出し、各級機関に対し、既定方針どおり「田中内閣打倒、フォード来日反対、反核反基地、処分阻止、反インフレ、生活防衛国民諸要求の前進、インフレ手当一か月分の獲得」を目標として、「別記で明らかにする各支部・分会は、同月一九日始業時から全一日のストライキに突入せよ。」と指令した。
これに対して、郵政省人事局長は、同月一八日、「申入書」をもって全逓中央執行委員長に対し、全逓が同月一九日に計画している違法なストライキを直ちに中止するよう重ねて強く求めるとともに、これに参加した職員に対しては厳重な処分をもって臨むものである旨を警告した。
(5) しかしながら、全逓は、総評の統一行動及び公労協の第一波統一ストライキに呼応して、同年一一月一九日全国八二〇局において政治目的をもその闘争目標として掲げた全一日の違法なストライキを実施し、組合員一万三二二四人がこれに参加して、職務を放棄した。
(三) 香取支部におけるストライキ実施の経緯
(1) ストライキ態勢の確立
(ⅰ) 香取支部は、昭和四九年一〇月三〇日、第四回支部執行委員会を開催し、秋期年末闘争においては、同支部が拠点に設定されることを想定し、全局オルグ方針を決定するとともに、秋期年末闘争の具体的な取組み方について検討を行った。更に、前記のとおり第五九回全逓中央委員会において、「一時金一か月分獲得」の要求を併せた総評、公労協の統一ストを同年一一月一九日に打ち抜くとの戦術が決定されるや、香取支部は、同月四日、第五回支部執行委員会を開催し、ストライキ態勢固めについての具体的検討を行った結果、同月七日から同月一一日までを、ストライキに対する参加決意表明のための署名運動であるいわゆる一票投票の態勢確立期間とし、同月一二日全分会で一斉に投票を実施するよう指示し、指示どおり一票投票を実施させ、ストライキ実施に向け組合員の意思を結集し、組織体制の確立を図った。
(ⅱ) 香取支部は、同月一五日拡大分会長会議を開催し、その中で全分会及び組合員に対し、ストライキ態勢固めのため、ワッペンの完全着用、団結寄せ書き署名運動等を指示し、組合員の団結をより強固ならしめようとした。
(ⅲ) 香取支部は、同夜、緊急執行委員会を開き、佐原分会の組織状況についての分析検討を行った結果、支部三役(支部長原告、副支部長伊藤佐市、書記長金杉弘)、業対部長、組織担当執行委員をして、佐原分会役員らとともに、一一・一九ストへの参加を呼びかけるため、佐原分会組合員の家庭訪問説得オルグを展開することを決定し、同月一六日から同月一八日にかけて、右オルグ活動を行った。
(ⅳ) 香取支部は、同月一七日、緊急分会長会議を開催し、一一・一九スト突入対策と具体的戦術の周知徹底を図るとともに、その意思統一を図った上、スト参加を表明していない組合員に対しては説得活動を展開し、ストに参加させるよう各分会長に指示した。
(2) ストライキの実施状況
以上のような状況の下に香取支部は、昭和四九年一一月一九日(火曜日)全一日のストライキを実施し、一二局所において二一二名の組合員がこれに参加して、職務を放棄した。
(3) 業務阻害状況
香取支部における右ストライキ実施の結果、次のような業務阻害が生じた。
(ⅰ) 郵便業務について
集配業務についてはストライキ当日一二局で配達すべき普通通常郵便物は二万八九八五通であったが、うち配達できたのはわずか六、六五二通であり、全体の七七%に当たる二万二、三六〇通が配達不能となった。
また小包郵便もストライキ当日配達すべきものは二一八個であったが、うち配達できたのはわずか九七個にすぎず、半数以上の一二一個が配達不能となった。
次に、郵便内務事務に関しては、差立事務については五〇〇通の不結束郵便物が生じ、また到着事務については一、六四二通の滞留郵便物が生じた。
(ⅱ) 為替貯金業務について
積立郵便貯金の集金事務についてみると、ストライキ当日集金のため持出された集金票の枚数は予定持出し枚数五八七枚に対しわずか六七枚にすぎなかった。また、貯金の窓口開設状況についてみると平常日は一六か所開設のところストライキ当日は一四か所の開設にとどまった。
(ⅲ) 簡易生命保険業務について
ストライキ当日保険料の集金にまわれた区数は予定集金区数五二区中わずか二にすぎず、また当日集金のため持出した保険料受入票の冊数は予定持出し冊数二、九一九冊中わずか四七冊にすぎなかった。
3 昭和五〇年一二月一日のストライキについて
(一) 全逓は、総評の昭和五〇年秋期年末闘争の基本方針及び公労協の「スト権奪還を中心とする秋期年末闘争方針」等に従い、同年一〇月一四日、第六一回中央委員会を開催し、<1>ストライキ権奪還の決着と過去の処分による実損の回復、<2>人事政策の変更、<3>労働時間短縮、<4>オンライン反対、反合理化基本要求の前進、<5>団交権の確立等八項目を掲げ、今次秋期年末闘争をスト権決着の正念場の闘いとして、スト権問題をすべてに優先して闘うことを主要目標と定めた。
そして、闘争戦術の具体的内容として、<1>同年一一月一日以降無期限の時間外労働拒否、業務規制闘争を展開し、省の姿勢いかんによっては、有効な時期にストライキを配置する、<2>業務規制闘争については、同月一〇日以降更に戦術を強化し、徹底した物ダメにより、交渉の進展を期す、<3>企業内問題は、同月中旬には一定の整理ができるよう取り組む、<4>ストライキはその課題により、<ア>企業内独自のスト、<イ>官民統一スト、<ウ>公労協反合理化統一スト、<エ>スト権決着統一ストの四種に分け、それぞれ有効な時期に配置し、同月一一日から一五日の間に最低七二時間ストを配置する、<オ>スト権決着ストは、公労協統一して最大のヤマ場に設定することとし、この場合、従来の拠点方式を一歩前進させて地域集中方式とし、地本ないしは地区単位で突入し、一局所四八時間ストライキを波状的に実施する、との方針を決定した。
(二) 全逓中央闘争委員会は、同年一一月一一日指令第一六号を発出し、年末諸要求の決着を目的とする同月一三日からの七二時間ストライキへの突入態勢の確立を指令したが、その後、郵政省との交渉において、企業内問題については、一定の前進を見たとして、翌一二日指令第一八号を発出して右ストライキの中止を指示する一方、その際、併せて、「各級機関は今次企業内闘争の到達点の周知徹底をはかるとともに本年末における最大の戦略課題であるスト権決着にむけた一一月下旬段階からの決戦ストライキに全体のたたかう総意を集中し、態勢の確立に全力を傾注せよ。」、「各級機関は組織強化拡大闘争を一層強化せよ。」と指示してスト権奪還スト態勢の準備を指令した。
全逓中央闘争委員会は、同年一一月二二日公労協が同月二六日からのストライキ突入指令を発出したことを受けて、各級機関に対して指令第二〇号を発出し、<1>各級機関は、第六一回中央委員会及び第四〇回全国戦術委員会の決定に基づく実施要綱により、同月二六日の始業時から、一局所四八時間地区別拠点波状ストライキに突入せよ、<2>各級機関は、万全の態勢を確立し、権力機関の挑発、介入、妨害をはね返して整然とストライキ行動を展開せよ。<3>各級機関は、ストライキ態勢解除まで第四〇回戦術委員会の決定に基づく平常能率の徹底、良質募集の徹底を基本とする規制闘争を展開せよ、<4>各級機関は、組織強化拡大闘争を更に持続強化せよ、と指令した。
これに対し、郵政大臣は、同日、「警告書」をもって全逓中央執行委員長に対し、全逓が一一月二六日から計画している長期間にわたる未曽有の大規模なストライキは公共企業体等労働関係法(以下、「公労法」という。)で禁じられていることはもちろん、組合活動の範囲を逸脱した政治的課題を目的とした違法なストライキであるから、直ちに計画を中止するよう強く申し入れるとともに、万一実施した場合は厳正な措置をもって臨むものであることを警告する一方、職員に対しては「職員の皆さんへ」と題する談話を公表し、違法なストライキには絶対参加することのないよう期待してやまない旨訴えた。
(三) 全逓は、スト権奪還公労協統一ストライキの一環として、あらかじめ組まれたスケジュールに従い、同年一一月二六日から翌月三日までの間、全国延べ二万四八二四局所において、政治的目的をその闘争目標としてストライキを実施し、職員延べ三三万二〇七九人がこれに参加して、職務を放棄した。
(四) 香取支部は、全逓中央闘争委員会のストライキ突入指令第二〇号を受けて、同年一一月三〇日(日曜日)及び翌一二月一日(月曜日。以下同日のストライキを「一二・一スト」という。)の両日にわたってストライキを実施し、一二局所延べ一九七名の組合員が参加して、職務を放棄した。
4 原告の行為
(一) 一一・一九ストの遂行の「あおり、そそのかし」
(1) 原告は、前記2(三)(1)(ⅰ)記載の昭和四九年一一月四日の第五回支部執行委員会における一票投票を実施する旨の決定に支部長として参画し、その旨を傘下の各分会及び組合員に指示し、同月一二日各分会で一票投票を実施させた。
(2) 原告は、同(ⅱ)記載の同月一五日の拡大分会長会議におけるストライキ体制固めのためのワッペン着用、団結寄せ書き署名運動実施の決定に支部長として参画し、その旨を傘下の各分会及び組合員に指示した。
(3) 原告は、同(ⅲ)記載の同日夜の緊急執行委員会における佐原分会の組合員の家庭訪問説得オルグを行う旨の決定に支部長として参画し、同月一六日から同月一八日にかけてのストライキへの参加を呼びかける右オルグ活動に自らも参加した。
(4) 原告は、同(ⅳ)記載の同月一七日の緊急分会長会議におけるストライキ突入対策等の決定に支部長として参画した。
(5) 原告は、同月一九日のストライキ当日、午前五時四〇分頃から午前八時三〇分頃までの間、佐原郵便局通用門前において、就労者に対するストライキ参加への説得のため、千葉地区本部役員、支部役員らとともに、立哨、徘徊中、午前七時四九分頃、郵便課職員桜井幸雄が就労しようとして局通用門前に現われるや、右立哨、徘徊を行っていた伊藤佐市副支部長、金杉弘支部書記長と共謀のうえ、右桜井に対しストライキに参加するよう説得した。
(二) 一一・一九スト、一二・一ストへの参加
原告は、一一・一九スト及び一二・一ストにそれぞれ自らも参加し、各一日職務を放棄した。
5 適条
原告の右(一)の行為は、公労法一七条一項後段、国家公務員法(以下、「国公法」という。)九九条に違反し、国公法八二条一号、三号に該当するものであり、右(二)の行為は公労法一七条一項前段、国公法九八条一項、九九条、一〇一条一項前段に違反し、同法八二条各号に該当する。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1(全逓信労働組合及び全逓信労働組合香取支部の組織)について
香取支部の執行委員が七名であることは否認し、その余の各事実はいずれも認める。
同支部の執行委員は一〇名である。
2 同2(昭和四九年一一月一九日のストライキ)について
(一) (一)(総評及び公労協の動き)記載の各事実は認める。
(二) (二)(全逓におけるストライキ実施の経緯)(1)ないし(4)記載の各事実は認める。
(三) 同(5)記載の事実のうち、全逓が昭和四九年一一月一九日全国八二〇局において全一日のストライキを実施し、組合員一万三二二四人がこれに参加して職務を放棄したことは認め、その余の事実は否認する。
一一・一九ストは政治的目的をもその目標としたものではない。なるほど、指令第一九号には、フォード来日阻止等の政治的要求についての文言が含まれているが、それは全逓が組織内に向かって掲げたストライキの付随的スローガンにすぎず、その実現を目的として一一・一九ストが敢行されたものではない。全逓は、昭和四九年当時の悪性インフレによる諸物価の高謄、これを加速させる公共料金の値上げなどにより、労働者の生活が極度に圧迫される中、郵政省に対し、生活防衛一時金(インフレ手当)の要求、年末年始繁忙に関する要求、労働基本権の確立、郵政事業の合理化、賃金引き上げ、労働時間短縮等の諸要求を行っていたが、誠意ある回答がなされなかったため、昭和四九年一〇月二九日及び三〇日の二日間開催された第五九回中央委員会において、総評・公労協の統一闘争に参加するとともに、全逓独自の要求の前進を目指して、労働時間短縮、インフレ手当一か月分及び期末手当三・五か月分などの経済的要求の実現を目的とするストライキ、時間外労働拒否、業務規制闘争などを行っていくことを決定し、これを踏まえて、同年一一月一四日指令第一七号を発出してストライキを準備する一方、郵政省と右要求に関する交渉も続けたが、郵政省の回答が抽象的回答に終始し、前進が見られなかったため、やむを得ず指令第一九号を発出して一一・一九ストに踏み切ったものであって、右ストライキは、経済的要求の実現を目的としたものである。
(四) (三)(香取支部におけるストライキ実施の経緯)について
(1) (1)(ストライキ態勢の確立)(ⅰ)記載の事実中、香取支部が昭和四九年一〇月三〇日第四回支部執行委員会を開催し、全局オルグ方針を決定したこと、同支部が同年一一月四日第五回支部執行委員会を開催したこと、同月一二日同支部の全分会で一票投票を実施したことは認める。右全局オルグ方針が同支部がストライキ拠点に指定されることを想定してのものであること、一票投票がストライキに対する参加決意表明のためのものであること、同支部が一票投票の実施を指示し、指示どおり一票投票を実施させ、ストライキ実施に向けて組合員の意思を結集し、組織体制の確立を図ったことは否認する。
全局オルグ方針は、支部定期大会後、支部役員の交代に伴い、支部役員が支部大会方針を浸透させるとともに、各局所の職場環境、労働条件等の実情を把握するために例年この時期に行っているものであって、ストライキ拠点の設定とは関係がない。一票投票も、闘争期間中に行われるストライキ全般についての組合員の総意を確認するために、組合員全員を対象として行われるものであって、具体的なストライキの実施とは関係がない。また、一票投票は、千葉地区本部から直接各分会に実施が指示されたものであって、香取支部が指示をしたものではない。
(2) 同(ⅱ)記載の事実中、香取支部が昭和四九年一一月一五日拡大分会長会議を開催したことは認め、その余の事実は否認する。
ワッペン着用、団結寄せ書き署名運動は、一般的に闘争に際して組合員の意識を高揚させる目的で、地区本部傘下の組合員を対象としてしばしば行われるものであって、具体的なストライキの実施に備えたものではない。またその指示も、千葉地区本部が組合員に対してしたものであって、香取支部が指示をしたものではない。
(3) 同(ⅲ)記載の事実中、香取支部が昭和四九年一一月一五日夜緊急執行委員会を開催し、佐原分会組合員に対する家庭訪問説得オルグをすることを決定したことは認めるが、これが、一一・一九ストへの参加を呼びかけたものであること、香取支部の支部三役、業務部長、組織担当執行委員が佐原分会役員らとともに家庭訪問説得オルグを実施することを決めたものであるとの点は否認する。
右家庭訪問説得オルグは、具体的には佐原分会が担当して実行することとし、実際にも同分会役員らによって実施されたものである。
(4) 同(ⅳ)記載の事実中、昭和四九年一一月一七日緊急分会長会議が開催されたことは認めるが、香取支部がこれを開催したことは否認する。右緊急分会長会議を招集、主宰したのは、千葉地区本部である。
(5) (2)(ストライキの実施状況)記載の事実は認める。
(6) (3)(業務阻害状況)記載の各事実はいずれも不知。
3 同3(昭和五〇年一二月一日ストライキ)について
同項記載の各事実はいずれも認める。
官公労働者の争議権剥奪は、暫定的立法であるとの政府、国会関係者の共通の認識にもかかわらず、昭和二七年の公労法改正において部分的に改められた他は根本的な改正が加えられることなく推移してきたが、昭和四九年四月一三日の総評大木事務局長と二階堂官房長官との間のスト権問題についての交渉の結果とりまとめられた了解事項に基づき、政府は同年七月公共企業体等関係閣僚会議(以下、「閣僚協」という。)を設置し、同年八月二日には専門委員懇談会(以下、「専門懇」という。)を発足させて公務員に対するスト権付与について審議させることとした。しかし、その結論が引き延ばされ、政府の態度決定もなされなかったため、公労協は、スト権問題について決着を図るため、昭和五〇年一〇月一五日にストライキ戦術をとることを決定した。
同月二二日、公労協は、政府は公約を守り、三木総理大臣はすみやかに決断をせよと要求するとともに、同月二五日の国労・動労の指名ストを皮切りに、同月二六日以降の一〇日間以上の公労協統一ストライキ突入指令を発出した。しかし、同月二五日、三木総理大臣は、同月二六日からのストライキを違法であると断ずると同時にスト権問題についての回答は同日中にはできないと発言した。そして、同月二六日、専門懇は、「三公社五現業のあるべき性格と労働基本権問題について(意見書)」を閣僚協に提出した。その内容は、経営形態が民営ないし準民営にならない限り争議権は認められない(郵政については民営移管は不適当)とした上、争議行為に対する民事上の損害賠償制度の強化、刑事訴追の実行、実損回復措置の再検討等というものであり、おおよそ前時代的なものであった。そこで、同日、公労協は、公労協書記長会議を開き、右意見書に対する厳重抗議声明を発表した。しかし、同月二九日、自民党椎名副総裁と倉石座長が会談し、専門懇の意見書の尊重等を骨子とするスト権問題に関する「案文」をまとめ、同年一二月一日、自民党中曽根幹事長らは、「三公社五現業問題に関する党方針」を明らかにした。その内容は、専門懇の意見書を尊重し、その内容の具体化について検討する、公企体の公共性に対する自覚を高め、法秩序を厳守して労使関係を正常化する等というものであった。また、右自民党見解を受けて政府は、「三公社五現業の労働基本権問題に関する政府の基本方針について」を決定し、政府声明を発表した。内容は、自民党見解と軌を一にするものであった。
そのような中で全逓は、昭和五〇年に開催された第二八回定期全国大会に於て、あらゆる闘いの集約として全ての闘いに優先して「スト権奪還」を組織の総力を結集して闘い抜くこと、そのためにも「組織拡大」に全機関をあげて取り組むことを確認し、右大会決定を受けて、同年一〇月一四日第六一回中央委員会で「組織の総力をあげ、スト権決着等を求めて歴史的な闘いに突入」することを再確認し、被告主張のとおりの方針を決定した上、スト権一票投票を実施することとした。そして、全逓中央執行委員会は、同年一〇月三一日指令第一四号を発出して、スト権確立一票投票の強化を指令した。その結果、スト権奪還・年末諸要求解決に向けたスト権一票投票はスト批准率郵政部門八三・六一パーセントで確立した。一方全逓は、この頃郵政省と諸要求について連日交渉を続けたが具体的な前進はなく、スト権問題についても同年一一月一一日までにスト権問題についての省側の態度を明らかにするよう迫ったが省は何ら明確な態度を示さなかった。そこで、同日中央闘争委員会は、指令一六号を発出し「人事政策、団交権、反合理化、時短、郵政労働者の労働条件改善、経済的諸要求などをめぐる中央交渉は、一一月一日以降の時間外労働拒否を背景に連日精力的に展開され、さらに一〇月以降本格化した徹宵交渉をふくめ、一三日からの七二時間スト態勢を背景に行われるが現状では具体的前進はみていない。」として、同月一三日から予定されている七二時間ストライキの態勢確立、地方独自問題解決に向けての地方本部段階での交渉の強化等を指令した。右交渉の強化等を背景に同月一二日オンライン化等反合理化問題、祝日配達廃止問題、差別人事是正問題等の企業内要求の大綱が妥結するに至ったために全逓中央闘争委員会は同日指令一八号をもって、同月一三日以降の七二時間ストライキの中止指令を発出した。しかし、郵政省はスト権問題に関する姿勢について、三公社と異なり明確な態度を示すことはなかったため、同指令は、スト権ストの態勢の確立も併せて指令した。そして、全逓中央闘争委員会は、二七年間に及ぶストライキ権を奪われた状態の解消に向けて、同月二二日の前記公労協統一指令を受けて、指令第二〇号を発出し、同月二六日からのストライキ突入を指令した。これを受けて、同月二六日以降、四八時間波状ストライキが全国全職場で全組合員の参加によって実施されたものである。
4 同4(原告の行為)について
(一) (一)(一一・一九ストの遂行の「あおり、そそのかし」)について
(1) (1)記載の事実中、原告が昭和四九年一一月四日の第五回支部執行委員会における一票投票を実施する旨の決定に支部長として参画したこと、同月一二日同支部各分会で一票投票が実施されたことは認め、その余の事実は否認する。
前述のとおり、右一票投票の実施は、千葉地区本部が直接傘下の各分会に指示したものであって、右第五回支部執行委員会の決定は、右指示に従って、同支部各分会で一票投票を実施することを確認したにすぎない。
(2) (2)記載の事実中、原告が同月一五日の拡大分会長会議におけるワッペン着用、団結寄せ書き署名運動実施の決定に支部長として参画したことは認め、その余の事実は否認する。
前述のとおり、右ワッペン着用、団結寄せ書き署名運動も、千葉地区本部が傘下の組合員に直接指示したものであって、右拡大分会長会議の決定は、右指示に従ってワッペン着用、団結寄せ書き運動を実施することを確認したものにすぎない。
(3) (3)記載の事実中、原告が同日夜の緊急執行委員会における佐原分会の組合員の家庭訪問説得オルグを行う旨の決定に支部長として参画したことは認め、その余の事実は否認する。
前述のとおり、右家庭訪問説得オルグは佐原分会が担当するものとされ、実際にも、佐原分会役員らによって実行されているものであって、原告はこれに参加していない。
(4) (4)記載の事実中、原告が同月一七日の緊急分会長会議に出席したことは認めるが、その余の事実は否認する。
右緊急分会長会議は、千葉地区本部が招集、主宰して行われたものであって、原告は支部長として参加したものではなく、また、同会議におけるストライキ突入対策についての説明も、千葉地区本部からなされており、原告は出席はしたものの、何ら発言もしていない。
(5) (5)記載の事実は否認する。
(二) (二)(一一・一九スト、一二・一ストへの参加)について
同項記載の事実は認める。
5 同5(適条)について
(一) 本件懲戒処分は、原告の行為の公労法一七条一項違反を理由とするものであるが、公労法一七条一項は、以下に述べるとおり憲法二八条に違反する。
すなわち、公労法一七条一項は、同法が適用される公務員の争議行為を全面一律に禁止するものであるが、このような争議行為全面一律禁止の法制は、連合国軍総司令部の超憲法的権力が存在しなければ、憲法二八条に違反するものとして、成立しなかったであろうことは確実である。
しかも、その立法目的の主要なものとされた戦後の経済混乱は、戦後三〇年を経過した現在では、経済事情の根本的な変化によって完全にその姿を消した。すなわち、これらの立法を必要とした特殊事情は、今日では、すべて解消したのである。そのうえ、その後、諸外国と同様に、わが国の公共労働は量的にも質的にも著しくその領域を拡大し、わが国の労働者全体のなかで公共労働者の占める比重はすでに相当な程度に達しており、これらのぼう大な数の労働者の労働条件が争議権の裏付けのない団体交渉か、人事院勧告によって決定されているという事態は明らかに憲法二八条の規定とも矛盾するものである。更に、公務員であることを理由に争議権を否認する論理は、先進資本主義諸国における争議権規制の実情からいっても、公務員がかつてのような特権ある地位ではないことからいっても論外であり、職務の公共性の故に、国民生活に重大な障害を与えるおそれあることを理由にして争議権を制限することはやむを得ないとしても、そのことによって全面一律の禁止をも正当化できるものではない。また、国民生活に重大な障害を与えるおそれの大部分は、労働関係調整法の定めている争議行為の予告、緊急調整その他の紛争処理手続によって予防ないし回避しうる性質のものである。このことは、私鉄の争議が労働関係調整法のみによって処理されていることを指摘すれば充分であろう。
そうであるとすれば、公労法一七条は憲法二八条に違反すると解すべきものである。
(二) 前記2(四)及び4(一)で述べたとおり、一票投票及びワッペン着用、団結寄せ書き署名運動は、いずれも具体的ストライキの実施とは関係なく、一一・一九ストをそそのかし、又はあおるものとはいえないし、その実施は千葉地区本部が直接指示したものであって、香取支部としての指示はされておらず、原告がこれに関与したものといえる余地はない。また、家庭訪問説得オルグは佐原分会が実施したものであり、原告はこれに参加してもいない。更に、緊急分会長会議は千葉地区本部が招集、主宰したものであって、原告は主導的役割を果たしていない。
桜井幸雄に対するストライキ参加の説得については原告が関与した事実はない。
五 再抗弁
本件懲戒処分は、次の事情に照らし、懲戒権の濫用にあたる。
1 四2(三)及び同3に述べたとおり、一一・一九スト及び一二・一ストは、官公労働者がその生活と権利を守るためにやむにやまれずに行ったものであって、これに対する本件懲戒処分は過酷である。
2 原告は、昭和五一年三月一六日本件懲戒処分を受けたのであるが、同日、昭和四九年春期闘争から昭和五〇年末のいわゆるスト権ストまでの間に全逓が行った争議行為を理由として、他の多くの全逓組合員が懲戒処分等を受けている。この懲戒処分等の内容を、千葉地区本部傘下の各支部についてみると、減給一一名、戒告三名、訓告三四九七名となっており、支部役員の地位にある者でも、大部分はせいぜい訓告処分しか受けておらず、戒告以上の処分を受けたのは、具体的な指導行為を行った者に限られている。
被告の主張する原告の懲戒処分事由のうち、具体的指導行為といえるのは、桜井幸雄に対するストライキ参加の説得活動に加わったことのみであるが、前述のとおり、これは事実誤認であり、仮に、そうでないとしても、右説得活動により桜井が勤務開始時刻までに入局することは何ら妨げられなかったのであるから、原告に戒告以上の処分を課する理由はなく、本件懲戒処分は他の組合員に対する処分との均衡を失するものである。
六 再抗弁に対する認否
争う。
第三証拠(略)
理由
一 原告が千葉県多古郵便局に勤務する国家公務員たる郵政事務官であること、被告が昭和五一年三月一六日原告に対し本件懲戒処分を発令したことはいずれも当事者間に争いがない。
二 事実関係
1 全逓及び香取支部の組織
抗弁1記載の各事実は、全逓香取支部の執行委員の人数の点を除き、いずれも当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、同支部の執行委員は七名であることが認められ、右認定に反する(人証略)及び原告本人尋問の結果は、信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。
2 昭和四九年一一月一九日ストライキ(抗弁2)
(一) 抗弁2の(一)(総評及び公労協の動き)及び(二)(全逓におけるストライキ実施の経緯)の(1)ないし(4)記載の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
(二) 同(5)記載の事実のうち、全逓が昭和四九年一一月一九日全国八二〇局において全一日のストライキを実施し、組合員一万三二二四人がこれに参加して職務を放棄したことは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、右一一・一九ストは、インフレ手当一か月分獲得などの経済的要求のほか、田中内閣打倒、フォード来日反対、反核・反基地などの政治的目標の実現をも目的として含んだストライキであることが認められ、右認定に反する証人成毛藤吉の証言及び原告本人尋問の結果はいずれも信用することができず、他に右認定に反する証拠はない。
(三) (三)(香取支部におけるストライキ実施の経緯)の(1)(ストライキ態勢の確立)について
香取支部が昭和四九年一〇月三〇日第四回支部執行委員会を開催し、全局オルグ方針を決定したこと、同支部が同年一一月四日第五回支部執行委員会を開催したこと、同月一二日同支部の全分会で一票投票が実施されたこと、同支部が同月一五日拡大分会長会議を開催したこと、同支部が同日夜緊急執行委員会を開催し一一・一九ストへの参加を呼びかけるため、同支部佐原分会組合員に対する家庭訪問説得オルグを実施することを決定したこと、同月一七日同支部緊急分会長会議が開催されたことはいずれも当事者間に争いがない。
右の争いのない事実に、(証拠略)並びに原告本人尋問の結果を総合すれば、次の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
(イ) 昭和四九年一〇月三一日の前記中央委員会指令第一三号を受けて、千葉地区本部は、同年一一月二日第一六回戦術委員会(支部長会議)を開催し、傘下の各支部に対し、秋期年末闘争全体にわたる戦術の指示等を行い、その中でストライキ態勢を確立するため、一票投票を実施することを指示した。
ところで、当時香取支部の近隣の各支部は概ね過去四、五年の間に既にストライキ拠点となっており、香取支部も同年九月二七日に予定されていた公共料金値上げ反対の総評・公労協統一ストライキでは拠点に指定されたが、突入に至らなかったという経緯もあって、次の一一・一九ストでは香取支部が拠点に指定される可能性が強い状況にあった。そのような状況下で、香取支部は、同年一一月四日第五回支部執行委員会を開催し、右の千葉地区本部の指示を受けて、香取支部の秋期年末闘争に対する取り組み方、当面の具体的行動等を決定し、一票投票については、同月七日から同月一一日までを一票投票の態勢確立期間とし、同月一二日全分会で一票投票を実施すること等を決定したが、原告はこの決定に支部長として参画した。そして、香取支部は、一票投票において一〇〇パーセントの賛成率を獲得することをもあわせて目標とし、第四回支部執行委員会において決定されていた全局オルグ方針に基づき同月五日から同月八日までの間支部役員が各分会に赴き全局点検オルグ(その本来の目的は定期大会で採択された運動方針の浸透、各職場の労働条件の実態把握、組合員の意見、要望の集約等にある。)を実施したが、その際、各分会に対し、右第五回支部執行委員会での決定事項の実施を指示し、右指示に従い、同月一二日各分会で一票投票が実施された。
(ロ) 更に、千葉地区本部は、闘争態勢確立の方針の一層の浸透をはかるため、同月七日、香取支部等千葉県北部の三支部の支部三役及び三支部に属する各分会の分会長を参集させて第五二回北部支部協議会を開催し、ワッペン着用、団結寄せ書き署名の実施等を指示した。そして、同月一四日前記全逓中央委員会指令第一七号(スト準備指令)が発せられると、千葉地区本部は、同月一五日第一七回地区戦術委員会(支部長、組織部長会議)を開催し、一一・一九ストは地域集中方式として、千葉地区内にもストライキ拠点を設定することなどの同ストライキの戦術を発表し、同会議終了後、千葉地区本部書記長成毛藤吉が、同会議に出席した原告に対し、一一・一九ストでは香取支部が拠点に指定される予定であることを伝えた。そこで、原告は、直ちに香取支部に戻り、佐原市所在の公共宿泊施設「釣の家」で開催中の香取支部の拡大分会長会議に出席して、右第一七回地区戦術委員会の報告をするとともに、香取支部が一一・一九ストの拠点に指定される予定であることを報告し、なお、ストライキの具体的実施方法については、前記成毛書記長が同月一六日から香取支部入りをし、指導にあたる旨説明した。そして、右拡大分会長会議では、当面における同支部の闘争強化対策として、団結強化の目的で、前記第五二回北部支部協議会において千葉地区本部より指示を受けた、関東統一ワッペン(関東地方本部が作成したビニール製の闘争スローガンを記載したワッペン)を組合員に着用させる運動、全分会による団結寄せ書き署名運動(半紙に闘争スローガンを記載し、各組合員が寄せ書きをする運動)を実施することなどが決定され、原告は右決定に香取支部長として参画した。拡大分会長会議終了後、同支部緊急執行委員会が開催され、ストライキ突入対策が協議された結果、各分会が自主的にストライキ実施態勢の確立をはかり、当該分会所属の支部役員がこれを補助することとし、ただ、佐原分会については、所属組合員が七十数名と多数であり、組織力も弱いことから、同分会に支部三役、業務対策部長、組織担当執行委員を配置し、佐原分会役員らとともにストライキに参加しないおそれのある組合員の家庭訪問説得オルグを行うことが決定され、原告は右決定に支部長として参画した。そして、右決定に基づき、香取支部副支部長伊藤佐市が、前記拡大分会長会議終了後開催されていた同分会の班長会議の場に赴き、かねてから組合の行う統一行動などへの参加が消極的な、主として主事、主任などの組合意識の弱い層に対し、家庭訪問説得オルグを行うことを指示した。そこで、同分会は、右指示に従い、翌一六日から同月一八日にかけて、その対象者七名程に対し、家庭訪問説得オルグを行い、一一・一九ストへの参加を説得した。なお、右伊藤副支部長もその一部に参加した。
(ハ) 同月一七日香取支部緊急分会長会議が開催されたが、同会議は、千葉地区本部業務対策部長栗田忠宏の司会により行われ、成毛書記長が中央情勢などを説明するとともに、一一・一九ストの実施について、ストライキは集会方式で行うこと、ストライキ実施対象者から無集配局組合員、準組合員等は除外すること、集会の会場は佐原市の佐原商工会議所とし、集合時間は午前八時三〇分とすること、ピケットラインは張らないこと、ストライキ実施に際して香取支部の執行権は停止することなどの具体的方法を指示し、なお、同支部におけるストライキ実施態勢の強化を要請したが、原告はこの会議に支部長として出席した。
(ニ) 同月一八日前記全逓中央闘争委員会指令第一九号(スト突入指令)が発せられると、千葉地区本部から、委員長石田多喜一、副委員長清水馨及び執行委員永野孝が香取支部入りし、佐原局の香取支部事務室において、石田委員長が原告に対し、香取支部に対するスト突入指令を伝達し、同時に香取支部の執行権を停止する旨通告した。また、石田委員長は、右執行権停止の旨を、同局鈴木庶務会計課長を介して同局局長高橋良平に通告した。
(四) 同(2)(ストライキの実施状況)記載の事実は当事者間に争いがない。
(五) (証拠略)によれば、同(3)(業務阻害状況)記載の各事実が認められ、この認定に反する証拠はない。
3 昭和五〇年一二月一日ストライキ
抗弁3記載の各事実はいずれも当事者間に争いがない。
三 原告の行為についての評価
1 原告は、公労法一七条一項は憲法二八条に違反すると主張するが、公労法一七条一項が憲法二八条に違反するものでないことは最高裁判所の確定した判例(最高裁昭和五二年五月四日大法廷判決、刑集三一巻三号一八二頁)であって、当裁判所もこれに従うのが相当と解する。
2 そこで、原告の行為とこれに対する公労法一七条の適用について検討する。
(一) 第五回支部執行委員会における一票投票実施の決定への参画について
原告が昭和四九年一一月四日開催の第五回支部執行委員会における一票投票を実施する旨の決定に支部長として参画したこと、同月一二日各分会で右一票投票が実施されたことは、前記のとおりである。そして、右の一票投票は、前述のとおり、一一・一九ストを目前に控え、香取支部が右ストライキの拠点となることが予想される状況の下で、同支部におけるストライキ態勢固めの一環として行われているものであるから、同支部組合員をして、同支部の実施する一一・一九ストへの参加を促し、その遂行に向けて結束力を固めさせる意味を有するものといわざるを得ない。
ところで、右第五回支部執行委員会における一票投票実施の決定は、中央委員会指令第一三号に基づき千葉地区本部が香取支部に対して行った指示に従い行われたものであるが、(証拠略)によれば、全逓の組織は、中央本部、原則として各地方郵政局担当地域ごとに設けられる地方本部、原則として府県ごとに設けられる地区本部、原則として地区本部の定めるところに従って設けられる支部、集配局単位(周辺の無集配局を含む。)で設けられる分会から成り、中央本部、地方本部、地区本部及び支部は、それぞれ後者を前者の下部組織とする議決執行機関として系列化されており、分会は、独立の執行権限はないが、支部の下部組織として、支部の指示の実践や組合員への伝達などを担当するものであることが認められ、この認定に反する証拠はない。
この事実によれば、支部はそれ自体独立の議決執行機関であって、地区本部の指示に従って行われた決定であるからといって支部の決定としての性格が失われるものではない。したがって、第五回支部執行委員会における一票投票実施の決定に支部長として参画した原告は、香取支部の各分会及び組合員に対する一票投票の指示に主導的役割を果たしたものといわなければならず、公労法一七条一項後段により禁止されているストライキの実施をそそのかし、又はあおる行為をしたものと評価することができる。
(二) 拡大分会長会議におけるワッペン着用、団結寄せ書き署名運動の決定への参画について
昭和四九年一一月一五日開催された拡大分会長会議においてワッペン着用、団結寄せ書き署名運動の実施が決定され、原告が右決定に香取支部長として参画したことは、前記のとおりである。そして、拡大分会長会議において決定されたワッペン着用、団結寄せ書き署名運動は、前述のとおり、香取支部が一一・一九ストの拠点に指定されることが千葉地区本部より伝えられた段階で、同支部におけるストライキ準備対策として実施されているものであるから、同支部組合員をして、同支部の実施する一一・一九ストへの参加を促し、その遂行に向けて結束力を強化させるものであるといわざるを得ない。
右拡大分会長会議におけるワッペン着用、団結寄せ書き署名運動実施の決定も、千葉地区本部の前記第五二回北部支部協議会における指示に従って行われたものであるが、このことにより香取支部の決定としての性格が失われるものでないことは一票投票に関し述べたところと同様である。従って、右拡大分会長会議の決定に支部長として参画した原告は、香取支部の各分会及び組合員に対するワッペン着用及び団結寄せ書き署名運動実施の指示についても、主導的役割を果たしたものといわなければならず、公労法一七条一項後段の規定に違反するといわなければならない。
(三) 緊急執行委員会における家庭訪問説得オルグ実施決定への参画について
原告が昭和四九年一一月一五日開催の緊急執行委員会における、佐原分会の組合員の家庭訪問説得オルグ実施決定に支部長として参画したことは、前記のとおりである。
被告は、更に、右家庭訪問説得オルグに原告自らも参加した旨主張する。そして、被告がこの点の証拠として提出した(証拠略)(香取支部定期大会報告書)には「支部三役、業対部長、組織担当執行委員を配置しながら佐原分会役員、活動家と共に弱い層と見られる組合員の家庭訪問説得オルグを展開した。」との記載はあるが、右記載からは必ずしも支部長である原告が自ら家庭訪問説得オルグに参加したものと断定することはできず、これを否定する(人証略)並びに原告本人尋問の結果に照らせば、(証拠略)によっては被告の右主張事実を認めるには至らず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
しかしながら、原告が自らは家庭訪問説得オルグに参加していないとしても、前述のとおり、右緊急執行委員会において、佐原分会のストライキ実施態勢確立のため、同分会における家庭訪問説得オルグを決定し、右決定に基づき、同分会では一一・一九ストに不参加が予想される組合員七名程に対し家庭訪問説得オルグを実施し、右ストライキへの参加を説得しているのであるから、右決定に支部長として参画した原告の行為は公労法一七条一項後段に違反するものということができる。
(四) 緊急分会長会議におけるストライキ突入対策等の指示について
原告が昭和四九年一一月一七日緊急分会長会議に出席し、右緊急分会長会議においては、一一・一九ストの除外対象者、集会会場、集合時間等の実施方法の細目が指示されたことは、前記のとおりであり、これが香取支部組合員を一一・一九ストに参加させるための行為であることは明らかである。
ただ、前述のとおり、右緊急分会長会議は、千葉地区本部の栗田業務対策部長の司会により行われ、一一・一九ストの実施方法の細目も同地区本部の成毛書記長から指示されており、原告が同会議を主導する具体的行為を行ったものとは認められない。しかしながら、原告は当時香取支部の支部長であり、前記のとおり、分会は支部の指示の実践、組合員への伝達等を分担する支部の下部組織であるから、右緊急分会長会議の招集は、支部長である原告の関与なく行われることは有り得ないというべきである。
そうすると、右緊急分会長会議に支部長として出席した原告の行為もまた、公労法一七条一項後段に違反するものといわなければならない。
(五) 桜井幸雄に対するストライキ参加の説得について
被告は、原告は一一・一九スト当日、午前七時四九分頃、佐原郵便局通用門前において、伊藤佐市副支部長、金杉弘支部書記長と共謀のうえ、同郵便局郵便課職員桜井幸雄に対しストライキに参加するよう説得したと主張している。
この点について、(証拠略)(千葉郵政局庶務課の萩原広市の現認書)、(証拠略)(関東郵政局人事部要員課要員係長斉藤進の現認書)、には、被告の主張に沿う記載がある。また、証人萩原広市及び斉藤進は、各自の現認書の記載は正しいと証言し、証人高橋良平は原告が桜井に説得活動をしたことを部下から報告を受けたと証言している。一方(人証略)及び原告本人は、一致して、原告は一一・一九ストの前日から前記「釣の家」に宿泊し、当日は朝から同所で時間帯別ストライキ突入予定表を作成しており、佐原郵便局通用門前に行ったのは午前八時二〇分前後である旨供述しており、また(人証略)も、一一・一九スト当日の朝、就労しようとして佐原郵便局通用門前に来たとき、前記伊藤副支部長らに声をかけられたが、原告はそこにいなかった旨証言している。
そこで、検討すると、右の各現認書についてその作成者があえて虚偽の事実を記載したことを疑わせる証拠はない。しかし、証人斉藤進の証言によると、同人は原告ら組合役員とは面識がなく、佐原郵便局の管理者らに聞いて現場にいた組合役員の氏名を記載したということであり、右の記載内容が正確であるか否かについて疑いを容れる余地がある。また、証人萩原広市の証言によると、同人は原告と面識があり人違いをすることはないということであるが、同証言によると、同人は、当日午前五時二〇分頃から佐原郵便局の門前におり、そのころから組合側の者が門前にいて就労のため郵便局内へ入る者をチェックしていたのを現認したというのであるが、同人作成の現認書にはその旨の記載はなく、午前七時四九分頃の桜井幸雄に対する説得行動についての記載しかない。ストライキ実施に際して作成される現認書の目的から考えると、このように組合側の行動のごとく一部のみを記載してあるということは現認書の内容の正確性を疑わせるものということができるが、同証人はこの点について何ら納得できる説明をしていない。以上のような事実から考えると、被告主張に沿う前記各証拠によっては、これに反する前記のような証拠の存在をも斟酌すると、被告主張事実を認めるに足りず、他に被告主張事実を認めるに足りる証拠はないといわなければならない。
(六) 一一・一九スト及び一二・一ストの参加について
原告が一一・一九スト及び一二・一ストに参加したことは当事者間に争いがなく、右各行為が公労法一七条一項の規定に違反することはいうをまたない。
3 原告の右(一)ないし(四)の各行為が国公法九九条に、右(六)の行為が国公法九八条一項、九九条、一〇一条一項前段にそれぞれ違反することは明らかである。
4 したがって、原告には国公法八二条各号に定める懲戒事由があるということになる。
四 懲戒権の濫用について
公務員につき、懲戒事由の存在が認められる場合に、懲戒処分を行うかどうか、また、懲戒処分のうちいずれの処分を選択するかは、その処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量の範囲を超えるものと認められるものでない限り、懲戒権者の裁量に委ねられているものと解すべきところ、前記二及び三に認定した一一・一九スト及び一二・一ストの目的、一一・一九ストにおいて原告の果たした役割、同ストによる業務阻害の状況等に鑑みれば、六か月間俸給の月額の一〇分の一の減給を内容とする本件懲戒処分は、重きに失するものとはいい難い。
もっとも(証拠略)によれば、本件懲戒処分のされた昭和五一年三月一六日に、郵政省は昭和四九年春期闘争から昭和五〇年秋期闘争までの争議行為に関し、一六万九四〇六名の職員を懲戒処分及び訓告処分に付したところ、千葉地区本部傘下の組合員については三五一一名が処分されたが、そのうち減給処分は一一名、戒告処分は三名にすぎず、他の三四九七名は訓告処分にとどまっていることが認められるが、同証拠によれば、右戒告以上の処分者は支部役員、分会長等の役職者で、争議行為に主導的役割を果たしたものであることが認められ、一一・一九スト及び一二・一スト当時原告は香取支部の支部長であったこと、原告が一一・一九ストで果たした前記の役割等に照らせば、本件懲戒処分が他の者との均衡を欠いたものであるともいえず、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量の範囲を超えるものと認めることはできない。
また、被告が処分事由として主張する事実のうち、一一・一九ストに関連して、原告が佐原分会の組合員の家庭訪問説得オルグに参加したこと及び原告が桜井幸雄に対してストライキ参加を説得したことの二点については、前記のようにその事実の存在を認めることはできなかったのであるけれども、右の二つの事実の本件処分事由該当事実において占める重要性の程度、これを除いたその余の処分事由該当事実の内容を考慮すれば、右の二つの事実の存在が認められなかったからといって、本件懲戒処分が社会観念上著しく妥当を欠き、裁量の範囲を超えるものと認めることはできない。
したがって、本件懲戒処分が懲戒権の濫用であるとする原告の主張は採用できない。
五 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 今井功 裁判官 川添利賢 裁判官星野隆宏は退官のため署名押印することができない。裁判長裁判官 今井功)